私にとって初めての沖縄の思い出は、高校時代に遡る。当時放送部に所属していて、アナウンスの大会で九州大会に進出し、その会場が沖縄だった。その大会に一緒に出場していた友人〝ヒカリ〟が、今は沖縄でアナウンサーとしてバリバリ活躍している。
ヒカリは1年生の頃から初大会でも入賞し、誰もが認めるエース兼部長だった。就活中も、偶然地元のテレビ局の面接で同じグループになり、夕食中に彼女だけ選考通過の電話がかかってきたのも、今となっては笑い話……なわけがない。人生のトラウマの3本指には入る出来事である。高校時代からこちらが勝手にライバル視し続け、何度も心を折られてきた相手ではあるが、それでもやっぱり彼女のことは尊敬している。そんな私も、年越し前になんとか滑り込み内定ゲット。地元の九州から遠く離れた北海道でアナウンサーとして働いている。お互い夢を叶えた者同士、入社したばかりの頃はしばらく近況を報告しあっていたが、徐々に連絡頻度は落ち着いていった。お互い口先では「会いたいねー」と言いつつも、如何せん距離が距離。社会人4年目にしてようやく、「そろそろ行ってみるかぁ」となんとなく腰を上げた。思い立ったときに行動しなければ、一生実現しない気がするし。
「湿気すっっっご⁈」
那覇空港から降り立った際の第一声である。ひとり旅だったのに、そこそこ大きいボリュームで反射的に声が出てしまった。到着して1秒で北海道とも東京とも違う暑さを実感した。汗がダラダラ流れ落ちるというよりは、気づいたらじっとりシャツが変色して染み込んでいる感覚の暑さだ。
空港からモノレールで県庁に移動する。県庁にもちゃんとシーサーがいた。しかし、それ以上に目を奪われたのは、すぐ隣に建つおびただしい量のツタに覆われたビル。どうやら那覇市役所の本庁舎らしい。ホラー映画の舞台に使えばいいのに。写真を撮ってヒカリにメッセージと合わせて送ると、「暑いから中に入りなよ」とデパートを指定された。
そしてついにヒカリと合流。あの気まず過ぎる夕食から、実に約4年ぶりの再会である。メッセージのやり取りがあったとはいえ、最初はやや緊張した。ヒカリは全然気にしていなさそうだったが。気持ちの切り替えが早く、サッパリした性格がヒカリの美点である。
まず向かったのは国際通り。沖縄感満載の飲食店やお土産屋がずらりと並んでいる。しかし、旅行を振り返ると、国際通りに限らず沖縄はどこもかしこも個性が爆発していた。まちの活気はあるが、ほとんどの壁や看板が色あせているため、全体的にどこか昭和の空気を感じる。聞いたところ、潮風の影響で劣化が早いらしい。
国際通りと首里城だけは、高校時代にも行ったことがあった。九州大会に出場するメンバーで夕食を食べたお店では、たしか三線を弾きながら店員が島唄を歌っていて、顧問がふざけて踊りだした思い出がある。あのお店はまだ残っているだろうかとヒカリに尋ねてみた。「沖縄の居酒屋は大体みんな島唄を歌っているから、その情報だけじゃ特定できない」とのこと。そうなのか…。
ヒカリは私をもてなすため、さまざまな体験プランを計画していたようだ。記念すべきひとつめの体験は、沖縄そば作り。事前に用意された生地をこねたり、麺状に切ったりした後、職人が調理している間に持ち帰り用の生地まで作ることができる。音楽を流しながら生地をこねる時間もあり、一種のエンターテインメントを味わった。人生で初めて食べる沖縄そばが、まさか自分で作ったものになるとは。トッピングには、豆腐とあおさを選んだ。沖縄フードは、あおさやもずく、海ぶどうなど、私が好きな海藻が多いのでうれしい。余談だが、沖縄にいる間は浴びるほどシークワーサーやパイナップルのジュースばかり飲んでいた。
2日目は北部をドライブ。まず向かったのは古宇利島。エメラルドグリーンの海に挟まれた古宇利大橋は必見である。もし私が沖縄で生まれ育っていたら、海の色を青ではなく緑色に塗っていたかもしれない。そのくらい、海の概念が覆された。透き通る海を見て年甲斐もなく大はしゃぎしている私の横で、ヒカリは「もう少し晴れていたら、もっと空が綺麗に反射してさらに感動的だったのに。沖縄の海はこんなものじゃない」とどこか悔しげにぼやいていた。個人的には、曇り空の方が日焼けせずに済んでありがたいと思っている。曇りでも十分日差しは強く、優雅にサングラスを着けて運転してくれているヒカリの隣で私は目をシパシパさせていた。
古宇利島に続いて向かったのは、御菓子御殿。沖縄土産といえば、紅芋タルトがまず頭に浮かぶ。2つ目の体験として、紅芋タルト作りに挑戦した。紫芋クリームをタルト生地の中に絞る。私の不器用さが大いに発揮され、完成品は残酷なほどの差が現れた。箱にも好みで絵を描くことができる。絵は得意だ。ここで挽回しようと、私とヒカリの似顔絵を思い出に描いた。ヒカリは高校時代から運動神経は抜群だったが、美術の印象はあまり無かったので、「さぁどうだ!」と隣を覗くと、そこそこのイラストが仕上がっていた。…パーフェクトヒューマンめ!
3日目は、おきなわワールドを満喫した。手っ取り早く〝沖縄らしい〟1日を満喫したい人におすすめのテーマパークである。熱帯フルーツ園に、ハブとマングースのショーなど。琉球王国の城下町を見るエリアでは、琉球文化特有の衣装を着ることができる。ヒカリは男装の衣装を選んでいたが、これまたカッコイイ。宝塚の男役みたいだ。まったく、ここまでのスマートな旅行プランの企画といい、惚れそうになってしまうではないか。
3泊4日の計画のうち、2泊はヒカリの家に泊めさせてもらったが、最終日だけヒカリが予約してくれたホテルに宿泊した。屋外プールが付いていたので、数年ぶりに水着が日の目を浴びた。残念ながら私はカナヅチのため、スイスイと泳ぐヒカリに犬かきで必死に付いて行く。心配ご無用、私は水浴びで充分楽しめるタイプだ。日が沈んできた頃。ぷかぷか浮きながら、ふいにヒカリが尋ねてきた。
「あのさ。子ども何人欲しいとか、考えたことある?」
ちょっと意外だった。なんとなく、こういうふわふわした質問をするタイプじゃないと思っていたから。
「理想は2人かなぁ。兄弟っていいよねぇ。私はそもそも相手を見つけるところからだけど」
「私はいっぱい欲しいなー。あと、彼氏に早くプロポーズしてもらいたい。いつでも結婚できるように、髪伸ばしてるのに」
中学は陸上部で、高校時代もショートヘアが似合っていたヒカリ。高校時代からずっと付き合っている彼氏がいるが、当時も浮足立った様子を全く見せていなかった。そんなヒカリの乙女な一面を、出会ってから10年目にして初めて見た。
最終日は、空港まで車で送ってくれた。駐車場が混むことを予測して早めに出発してくれるあたり、どこまでも抜け目がない。…正直、会う直前まで楽しみ8割緊張2割という気持ちだった。ヒカリはずっと私にとって目標だったが、おそらくヒカリは特に気にしていない。抜けている私と対照的なしっかり者の性格も相まって、上手く話せるかほんの少し不安だった。しかし、ヒカリなりに私をもてなそうと計画してくれていたことが旅行を通してしっかり伝わったので、予想以上に楽しい旅行になった。
「次は北海道に来てね! 桜と紅葉が綺麗な時期がおすすめだよ!」
「いいねぇ。どっちも沖縄では見られないから丁度いいわ」
ヒカリが北海道に遊びに来てくれたら、私も全力でもてなそう。沖縄と真逆のカラッとした寒冷地で、きっと驚くにちがいない。今度は旅行プランバトルだ、なんて。